NPO未来化プロジェクト 横山順子
十数年前の冬、名古屋のJR金山総合駅コンコースでの出来事です。
夕方、帰宅する学生やサラリーマンが増える時間帯で、コンコースは急ぎ足で、改札口やホームへと向かう人でいっぱいでした。
そんな中、コンコースの端に一人の女性がうずくまり、その横で心配そうに声を掛け、介抱している女性の姿が目に飛び込んできました。
「大丈夫だろうか・・」と思った矢先、その介抱していた女性が、「女性の方、手伝っていただけませんか!」と、行き交う人々に呼びかけました。
私を含めて周囲にいた4、5人の女性が、その声に込められた緊張感に吸い寄せられるように駆けつけました。
その人は妊婦で、緊急を要する事態であることは、瞬時に理解できました。
「皆さん、この人と私を背にして、丸く囲むように立ってください。
そして、着ているコートを広げて、通行人の視線から守って下さい!」と、介抱している女性は冷静に、しかも的確に指示を出しました。
ときどき、妊婦の苦しそうなうめき声に、「生まれてこようとする命は、お母さんが守るのよ!がんばって!」と
介抱している女性の励ましが、力強く響きます。
それから間もなく、通りがかった男性が駅員室に知らせてくれたので駅員が担架を持って駆けつけてくれ、こう言いました。
「もう、ここからは大丈夫です。ご協力ありがとうございました」
しかし、妊婦を囲んでいた女性たちは、すぐに立ち去ることはなくコートで、妊婦が横たわる担架を囲み、
通行人の視線から守りつつ駅員室まで送り届けました。
そして、彼女たちは改札口へ、一人、また一人と去っていきました。
あざやかなお手伝いでした。みんなハンサムウーマンでした。
そして、最初に「女性の方、手伝っていただけませんか!」と、声を掛け、適確な指示を出した女性はお見事でした。
そして、現代のハンサムウーマンたちも、おなじ場面に遭遇したらきっと適確でやさしさに満ち溢れた対応をしてくれると思います。
ただ、心配なのは、事件か事故などに遭遇したとき、スマホを取り出し撮影する人が想像以上に多いことです。十数年前では、ありえなかった状況です。
民間調査会社が、全国10〜60代の男女1,733名を対象に調査した結果、全体の57.2%が「交通事故、人身事故を撮影する人はモラルがないと思う」と、回答しましたが、43%の人は容認、撮影、拡散という現状も浮かび上がってきました。
十数年前のハンサムウーマンたちが、コートを広げ、視線から妊婦を守ったように今の季節なら傘、スカーフやハンカチ、バック等々、何だっていいんです。
「外部の視線から守る」という、ひとり一人の行動が、窮地に陥っている人を、どれだけ勇気づけるか計り知れないのですから。